鈴木信太郎記念館|東池袋(新大塚)

西武池袋本店で開催された「池袋・豊島・西武沿線 レトロ百貨展」という催事を通じて知ったのが「鈴木信太郎記念館」です。催事会場にリーフレットが置いてあり、手にしてことからでした。
2023年、長期的な夏日の連続で、改めて知ることになった日本家屋の素晴らしさに魅せられ、記念館を訪れたいと思い足を運びました。鈴木信太郎氏ご本人のことを知ったのは当館を訪ねてからです。

記念館は、鉄筋コンクリート造の書斎棟、茶の間・ホール棟、座敷棟の三棟構成で、それぞれ建築年代が異なり、貴重な建造物が同一敷地内に所在することから、区の有形文化財(建造物)「旧鈴木家住宅」として保存されています。

私の興味の行方は、座敷棟。畳の上で正座をし、手すきガラスから見える景色に目を向ければ緑の庭が夏の日差しを受けて鮮やかです。縁側に立ち、ガラスの波打つ様子を見ているだけで涼しさを感じます。建物自体が呼吸をする日本家屋は、空気がよどむことがないため、外気温より-3℃くらいに感じるほど。何も置かれていない書院造りの室内で静かに過ごしていると、そのままお昼寝をしたくなるほど落ち着きます。「あぁ、こういう感覚。日本人として忘れたくないな」と思わせてくれました。

鈴木信太郎氏は東大名誉教授で、フランス文学研究者でした。フランス文学関係の稀覯本蒐集家(きこうぼんしゅうしゅうか)としても知られているそうで、書庫に並ぶ書籍の数々の中には、彼と交流のあった谷崎潤一郎や大佛次郎からの謹呈本なども展示されています。それらの本が保管されているのが、別棟の蔵造りの書斎です。

庫内はひんやりとした空気。もちろん、空調設備で整えられていますが、書籍保存のために日が当たらず、音の無い空間は体感気温以上に冷たく感じます。その中で温かな光の灯る書斎机、アールデコ調の照明、鈴木信太郎氏がデザインしたステンドグラス。美しい設えに息をのみました。

造り付けの書棚に並んでいる書籍の装丁はフランス語のものが多く、デザインもオシャレで、見ているだけで飽きません。

知る人ぞ知る静かな空間。夏の暑さも忘れ、別世界に浸るひととき。書斎は、文化人たちのサロンにもなったそうです。その雰囲気をそのまま体感できます。

屋外に出れば、また熱に包まれた夏日。


テキスト&写真:こばやしかをる


◆鈴木信太郎記念館

所在地:東京都豊島区東池袋5丁目52ー13
電話:03-5950-1737

開館時間:9:00~16:30
休館日:月曜日(祝日が重なる場合は翌日も)、第3日曜日、祝日、年末年始、展示替えによる臨時休館

入館料:無料

東京メトロ丸ノ内線 新大塚駅の裏手といった場所に位置しています。さくらトラム(都電荒川線)の向原電停から6分ほど、JR山手線 大塚駅南口からも12分ほど。

さんぽ旅 ウォーカブルシティ豊島

写真家 こばやしかをるが綴る、背伸びをしない身近なお出かけ「さんぽ旅」。「山手線北部を旅しよう」という企画から、地元豊島区内をよく歩くようになりました。ウォーカブル(語源 walk +‎ able)=歩きやすい、歩きたくなる、歩くのが楽しい。そんな街であることを実感します。

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